独特の映像表現が印象的な、フィンランドを代表する映画作家のひとりであるピルヨ・ホンカサロの魅力に迫る。
コンクリート・ナイト
■原題:Betoniyö■英題:Concrete Night
■監督:ピルヨ・ホンカサロ(Pirjo Honkasalo)
■出演:ヨハネス・ブロテルス(Johannes Brotherus),ヤリ・ヴァーマン(Jari Virman),アンネリ・カルピネン(Anneli Karppinen),ヨハン・ウルフサク(Juhan Ulfsak),Alex Anton
■2013年 フィンランド、スウェーデン、デンマーク■96min■言語:フィンランド語(Finnish)
■字幕:日本語
ピルヨ・ホンカサロ(Pirjo Honkasalo)
1947年、ヘルシンキ生まれ。17歳で映画制作を学び始め、67年に短編を初監督。70年にフィンランドでは女性として初めて長編映画を撮影。フィクションでは脚本も手掛け、ドキュメンタリーでは撮影監督も務める。写真や舞台芸術など、アートの分野でも広く活躍している。
14歳のシモは、母親と兄のイルッカとヘルシンキで暮らしている。母親が男と出かけてしまうと、シモはビールを飲むために精一杯大人びた格好をしてイルッカと街へ出かける。しかし、そこへイルッカの仲間がやってきて彼を連れ去ってしまう。イルッカは、仲間の身代わりに服役することになっていたのだった。ひとり取り残されたシモは街をさまよい、やがて家に帰るが、母親と口論になって家を飛び出す。行き場を失ったシモは、向かいのアパートの男に声をかけられ、彼の部屋へと導かれるが…。
原作は『白夜の時を越えて』と同じピルッコ・サイシオの81年に発表された同名小説だが、映画の舞台は現代にアレンジされている。ホンカサロ監督とピルッコ・サイシオは、私生活でもパートナーで、2014年のフィンランド映画祭では本作の上映時に揃って来日、Q&Aにも登壇した。
『白夜の時を越えて』と同様に、主人公の母親の身持ちは悪い。兄のイルッカは、仲間の身代わりになって服役するあたり、素行が悪いだけではなく、仲間内でも下っ端のチンピラなのではないか。そういう家庭環境で育ったせいか、思春期のシモの情緒は常に不安定だ。
ワイドスクリーンに映し出されるモノクロームの幻想的で美しい映像は、シモの不安定さを表していく。海に架かる橋が崩壊し、橋を渡る電車がそのまま海へと落下する。車内に閉じ込められたシモは水底へと沈んでいく…。シモが見る悪夢だが、彼はこの悪夢に捕われ、何度もこの夢を思い出す。また、シモが鏡に向かうシーンも度々登場する。シモが湯気で曇る鏡を手で拭ってもまた曇る様子は、彼のアイデンティティの曖昧さを表しているようだ。特に光を効果的に使い、また、不穏な音楽や無機質な音でもシモの精神世界を表現していく。
ホンカサロ監督の映像へのこだわりが存分に発揮されている本作は、フィンランドアカデミー(ユッシ)賞で作品賞、監督賞、撮影賞、美術賞、編集賞、音響デザイン賞を受賞。米アカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表にも選出された。(細川)