上映作品

NORTHERN FOCUS

北欧映画界を牽引する監督たちの待望の新作、未公開作を一挙上映!第一線で活躍し続けている注目すべき監督たちにフォーカスする。

メン&チキン

■原題:Mænd og høns■英題:Men & Chicken
■監督:アナス・トマス・イェンセン(Anders Thomas Jensen)
■出演:マッツ・ミケルセン(Mads Mikkelsen),デヴィット・デンシック(David Dencik),ニコライ・リー・コス(Nikolaj Lie Kaas),ソーレン・マリン( Søren Malling),ニコラス・ブロ(Nicolas Bro)
■2015年 デンマーク■100min■言語:デンマーク語(Danish) ■字幕:日本語・英語【With English subtitles】

ジャパンプレミア
(ジャパンプレミア)
2/6(土)16:30〜 2/12(金)21:10〜

アナス・トマス・イェンセン(Anders Thomas Jensen)
高校時代から、監督・脚本家としてTV映画を手掛ける。96年に24歳で短編映画デビュー。その年は脚本作品だけでも短編4作、長編1作、そして監督・脚本作品を1作制作している。監督・脚本を務めた”Ernst & lyset”(96)と”Wolfgang ”(97)で米アカデミー短編賞にノミネートされ、"Election Night"(97)で受賞を果たす。翌年の2000年には『ブレイカウェイ』(未)で長編監督デビュー。その間にも『ミフネ』(99)、『ゼイ・イート・ドッグス 』(99)『キング・イズ・アライヴ』(00)他、多数の脚本を担当。『しあわせな孤独』(02)以降、デンマークで製作されいてるスサンネ・ビア作品の脚本をすべて手掛け、『未来を生きる君たちへ』は米アカデミー外国語映画賞を受賞した。
観る者の心を揺さぶるシリアスなドラマを得意とする一方で、スリラーやクライム・アクションなど幅広く書き分ける。自身の監督作品では、ブラックコメディをベースにしながらも、人間の心理を追求した独特の世界観を展開させ、これまでに制作した長編4作品は、いづれも高い評価を受けている。

冴えない大学教授のガブリエルと、女とトリビアにしか興味がないエリアスの兄弟は、父親の死後、遺品からビデオレターを発見する。そこでは、父親がふたりの生物学的な父親ではなく、本当の父親は別にいること、それぞれ母親も違うこと、そしてエリアスの母親は彼を産んだ直後に亡くなったことが語られていた。ふたりは困惑するが、父親の名前から住所を探し出し、彼に会いにいくことにする。そしてふたりが辿り着いたのは、家畜が放し飼いにされている寂れた屋敷だった。そこにはさらに3人の異母兄弟が暮らしていて、父親は病気で寝込んでいると告げられる。一度は追い返されるが、再び訪ねると凶暴な異母兄弟たちに暴力で迎えられる。ガブリエルが足を負傷したため、ふたりはその屋敷に留まることになるが…。

アナス・トマス・イェンセン作品の常連マッツ・ミケルセンと『特捜部Q』シリーズのニコライ・リー・コスに加え、『裏切りのサーカス』(11)のデヴィット・デンシック、『シージャック』(12)のソーレン・マリン、『ダーク・ホース』(05)のニコラス・ブロと北欧の個性派にして実力派の俳優たちが集結。特殊メイクで顔を崩し、奇妙な異母兄弟を演じる。お伽噺を思わせるオープニングとエンディングのナレーションの子供の声は、監督の娘カレン・マリー・イェンセンによるもの。
イェンセン監督作品には、まともな人間はほとんど出て来ない。いい年をしたダメな男たちだが、ふとしたきっかけで自身の人生と向き合い、やがて新しい道を見付けていく。寓話的要素を含みながらも、ブラックユーモアとヴァイオレンスがバランスよく盛り込まれいるため、説教くささを感じさせず、ダメな登場人物たちも最終的には愛おしく感じられてしまう。奇妙で不条理な世界観とは裏腹に観賞後にはなんとも言えない爽やかな後味を残すから不思議だ。
本作でも変人が勢ぞろいで、マッツ・ミケルセン演じるエリアスはところ構わずマスターベーションを始めるし、屋敷に住む異母兄弟たちは異常なまでに凶暴。エリアスは異母兄弟たちにすぐに馴染むが、なかなか溶け込めないガブリエルは唯一まともと言えるかもしれないが、それでもやっぱりどこかしらおかしな感じがする。
家畜だらけの屋敷、姿を見せない父親、兄弟たちを産んですぐに死亡している母親たち…本当の父親に会いに行くというルーツ探しの物語にミステリー要素が加わり、めくるめくイェンセン・ワールドが展開する。(細川)