上映作品

再発見! 北欧古典映画の魅力

巨匠ドライヤーが、不振に喘ぐ祖国の映画界復興を懸けて「最もデンマークらしい映画」として創り上げた幻の大作!

むかし、むかし

■原題:Der var engang■英題:Once Upon a Time
■監督:カール・Th・ドライヤー(Carl Theodor Dreyer)
■出演:クララ・ヴィート(Clara Wieth),スヴェン・メトリング(Svend Methling),ペーター・イヤンドーフ(Peter Jerndorff),ハーコン・アーンフェルツ=ロエンネ(Hakon Ahnfelt-Rønne),トーベン・マイヤー(Torben Meyer)
■1922年 デンマーク■78min
■字幕:日本語・デンマーク語・英語【With Danish and English subtitles】

80年の時を経て2002年に修復された国宝級フィルムの復元版を生演奏付き上映。
※映像の欠落部分にはスチール写真と字幕での解説が入ります。
2/7(日)16:30〜 2/9(火)19:00〜

カール・Th・ドライヤー(Carl Theodor Dreyer)
『奇跡』『裁かるるジャンヌ』などの作品で、後世の映画作家達に多大な影響を与えたデンマークの巨匠。1889年、私生児として生まれ、厳格な養父母の下で育てられた。ジャーナリストとなり映画評を手掛けた後、脚本家としても活躍、監督への道を歩むことになった。若い頃は気球に熱中し、気球乗りの役で映画に出演もした。

演奏:柳下美恵 (Mie Yanashita)
サイレント映画ピアニスト。1995年に朝日新聞社主催映画誕生100年記念上映会でデビュー。国内外の映画祭で活躍。即興演奏を得意とし、全てのジャンルを弾きこなす。600本を超す映画に伴奏をつけている。

 
トークショー情報
2/7(日)16:30〜、2/9(火)19:00〜 上映終了後 ※柳下美恵さんとの対談形式のトークショーです。

ゲスト:吉田稔美
イラストレーター・絵本作家・古楽愛好家。日本ルネサンス音楽普及協会・日本イタリア古楽協会 会員。著書に、西洋舞踊研究家・(故)原田宿命との共著「ルネサンス踊り絵本」(架空社)。

 

美貌の誉れ高いイリヤ国の王女は、その我儘と高慢さでも並外れていた。王宮を訪れる求婚者は数知れずいたが、気に入らない求婚者には傲慢な態度で縛り首を言い渡すのも、いつものことであった。ある時、遠く北の国デンマークから王子ヨアンが訪れる。ヨアンは、王女を一目見た時から心奪われるが、王女ににべもなく追いかえされてしまう。祖国に戻っても気の晴れない王子は、ひとり森へ出かけ、精霊に出会う。精霊は王子に魔法のやかんを渡し、それに息を吹きかけると未来の花嫁が映し出されると言い残して消えていく。
イリヤ国では今日も王女が華やかな衣装に身を包み、庭で侍女たちと戯れていたが、そこに乞食を装ったヨアンがやってくる。興味を引かれた王女は、銅のやかんを見てどうしても欲しくなり、乞食の「今夜、寝室に招いてくれたらあげよう」という条件をのんでしまう。そして、その夜から王女の運命は大きく転落していくことになるのだが、それは王子ヨアンの人生を懸けた計略の始まりであった…。

1910年代から20年代にかけて競うように名監督を生み出し、黄金時代を築き上げたスウェーデンとデンマークの映画界であったが、1910年代の終わり頃にはデンマーク映画の製作状況は悪化の一途をたどっていた。大興行主だったソフツ・マッセンはこの状況を憂い、スウェーデンやドイツで映画を撮らざるを得なくなっていた監督ドライヤーに「最もデンマーク的な映画」の製作をもちかけ、ドライヤーはこの愛国的な要望に応えた。
デンマークの民話に基づいたホルガ―・ドラックマン原作のお伽噺「むかしむかし」は、音楽劇としても1887年の初演から大成功を収め、繰り返し国内で上演されてきたが、映画の配役も王立劇場の名優ペーター・イェンドルフ(王様役)など演劇界の俳優たちが多く出演し、華やかなものとなった。
また、ドライヤーは豪華なロココ調の宮殿のセットや調度品にも凝り、特に衣装は、当時はドイツで作る方が安価であったにもかかわらず、専門の衣装係を置いて全てを国内で作らせたという。さらに俳優のスケジュールのために豪華な宮殿のセットを二度も建てた監督にプロデューサーのマッセンは肝を冷やしたに違いない。後にマッセンが「映画の製作はもうこりごりだ」ともらしたほど予算を使った本作は、王宮の場面の優美さと森の小屋での貧しさの描写のコントラストが際立つ、エレガントでポエジー溢れる作品となった。
現在観ることができるのは、マッセンが経営していた映画館パラス劇場の倉庫から1958年に発見された本作の唯一残存するプリントの欠損部分を、2002年にデンマーク国が修復した復元版のみである。そしてその復元は、スウェーデンがサイレント映画時代から検閲してきた映画のすべての字幕を書き写して保管していたリストを参考にしなければ実現は不可能であった。(雨宮)