ジャパンプレミア作品、劇場未公開作品の中からジャンルを問わず選りすぐった北欧映画傑作選!
愛する人へ
■原題:En du elsker■英題:Someone You Love
■監督:ペアネレ・フェシャー・クリスチャンセン(Pernille Fischer Christensen)
■出演:ミカエル・パーシュブラント(Mikael Persbrandt),トリーヌ・ディルホム(Trine Dyrholm), ビアギッテ・ヨート・ソレンセン(Birgitte Hjort Sørensen), Sofus Rønnov,イヴ・ベスト(Eve Best)
■2014年 デンマーク■100min■言語:デンマーク語(Danish)
■字幕:日本語・英語【With English subtitles】
トーマスは、世界的な成功を収め、LAを拠点に活動しているシンガーソングライター。アルバムのレコーディングのため、母国であるデンマークへ帰国したばかりだ。そこに、疎遠にしていた娘のジュリーが11歳の息子のノアを連れて訪ねて来る。ジュリーは、職場の指示で薬物更正施設に入らなければならないため、その間預かって欲しいとトーマスにノアを押し付けて行ってしまう。娘が幼い頃に離婚したトーマスは、突然現れた孫との生活に戸惑うが、仕事仲間やホームヘルパーのサポートもあり、ようやくノアとも心を通わせ始めていた。そんなある日、トーマスは、施設での生活に耐え切れなくなったジュリーに助けを求められるが…。
主人公のトーマスは、今は克服しているが、薬物、アルコール中毒だった過去を持ち、娘が幼い頃に離婚している。トーマス自身も親の愛情を受けずに育ち、家族の愛し方が分からないまま家庭を持ったため続かなかったのだろう。そして、その娘のジュリーにも問題は継承されていく。彼女も離婚をし、シングルマザーで子育てをしながらもキャリアを築いていたが、職場から更正施設入りを命じられるほど深刻な薬物中毒者になっていた。トーマスは自分勝手に生きてきたというより、自分勝手にしか生きられない不器用な人間だったのだろう。音楽を通じてノアと心を通じ合わせるようになるものの、助けを求める娘とは真剣に向き合えず、傷付いた孫を抱きしめることもできない。しかし、ある悲劇に直面することによってようやく自身と向き合い、そうして下した決断はこの悲しみの連鎖の終焉を予感させる。
ペアネレ・フェシャー・クリスチャンセン監督は、2006年の長編デビュー作"A Soap"でベルリン国際映画祭で銀熊賞と新人賞をW受賞。本作は長編4作目にあたり、2014年のスキップシティDシネマ映画祭で来日している。『未来を生きる君たちへ』、『悪党に粛清を』のミカエル・パーシュブラントが、本作のためにレッスンを重ね、レナード・コーエンを彷彿とさせる渋い歌声を披露している。トーマスの仕事仲間でプロデューサーのモリー役には『未来を生きる君たちへ』でミカエル・パーシュブラントの妻を演じたトリーヌ・ディルホム。娘のジュリー役には『ピッチ・パーフェクト2』でベラーズの強烈なライバルを演じたビアギッテ・ヨート・スレンセン。300人の候補の中から選ばれたノア役のソーフス・レノヴは、心の機微を表情やしぐさで巧みに表現し、ベテラン俳優陣と互角の演技を見せる。劇中でトーマスとモリーが作り上げる楽曲は、デンマークのシンガーソングライターのティナ・ディコ(Tina Dico)とシンガーのマリー・フィスカー(Marie Fisker)が手掛け、デンマークアカデミー(ロバート)賞オリジナル作曲賞を受賞。マリア・フィスカーはパーシュブラントの歌のコーチも務めた。また、デンマークでのトーマスの自宅として、アンデルセンも滞在したことがあるというロマン主義時代のお城が撮影に使用されている。(細川)